「ハラスメント相談窓口」開設にあたり、これだけは押さえておきたい5つのポイント

ハラスメント相談窓口の設置



このコラムの概要

大企業では令和2年6月から、中小企業では令和4年4月から職場におけるハラスメント防止対策が義務化されました。
これにより事業主には「雇用管理上必要な措置を講じること(第30条)」が求められています。
この必要な措置の中には「ハラスメント相談窓口」を設置し、ハラスメントに関する相談に対応する。
という内容があります。
相談窓口の初期対応により、ハラスメントを未然に防ぎ、深刻化することも防ぐことができ、ハラスメント防止の上で、相談担当者は極めて重要な役割を担っています。
相談窓口は社内で設置する場合と、外部に委託する場合(もしくは両方設置)がありますが、社内で設置した場合、窓口となる相談担当者のマニュアルづくりと教育・研修は欠かせません。
ここではハラスメント相談担当者が基礎として知っておくべき内容をまとめました。


ポイント1.ハラスメント対応の流れをおさえる


ハラスメント相談対応の流れ

①一次対応
相談者が窓口の面談だけを希望、もしくはここで解決ができれば終了となります。
 
②事実確認(行為者・周囲)
事実かどうかを確認するために、行為者、場合によっては周囲から事情を聴取します。
行為者・周囲への事実確認は、あらかじめ相談者の承諾を得た上で行います。
 
③問題解決のための対応(措置の検討)
確認した事実を踏まえて、会社としてどのような対応を取るかを検討します。
社内で懲罰委員会(ハラスメント対策委員会)を、あらかじめ決めておき協議することが望ましいです。
 
④相談者、行為者への説明、フォロー
会社としての対応が決まったあとは、相談者、行為者の双方に説明し、理解を得るとともに事後同様のハラスメントが起こっていないか、行為者は行っていないか等のフォローも行います。
 
⑤再発防止策の検討、実施
ハラスメントが起こった原因や背景を分析し、再発防止策を検討し実施します。

ポイント2.セカンドハラスメント厳禁。問題をこじらせない対応の仕方

ハラスメントの相談があったときは、できるだけ早く対応することを心がけてください。
また、相談者が緊張感や圧迫感を感じないよう、安心して話ができる場所や時間を確保すること、相談者の性別にも配慮し、同性の相談者を入れるなど、できるだけ複数名で相談を聴く方が望ましいです。
また、相談を受けるときには、相談者のプライバシーや人権に配慮し、秘密厳守、相談者が二次被害や不利益な取り扱いを受けることがないよう十分注意してください。
 
①相談担当者としての役割を認識すること
相談担当者としての役割を認識すること
 
職場におけるハラスメントは雇用管理上の問題であること理解し、経営上の重要な役割を担っていることを認識してください。
相談を単に受付て処理するだけでなく、一次対応の相談担当者の聴き方次第で問題がさらに大きくなることや、セカンドハラスメントに発展する可能性もあります。
また、相談担当者に十分に話を聴いてもらえなかった、取り上げてもらえず解決には至らなかったという結果の場合は、その噂が広がり、今後、ハラスメントがあっても誰も相談に来なくなり、職場環境を悪化させ、働く人の意欲は低下しパフオーマンスが下がります。
会社の対応に期待できないため社員が退職し人材流出にもつながります。
 
②相談者の立場、相談に至る経緯を思いやる
「わかってもらえるだろうか」「相談に行ったことで自分の立場が悪くならないだろうか」「自分が悪いと責められたりしないだろうか」と相談者は様々な不安を抱えています。
これまで1人で悩み、いろいろと迷った末に相談に来ていることも考えられます。
また、ハラスメントにより強いストレスを受け、メンタル不全に陥っていることも場合もあります。そのため相談担当者は、相談者の心理的状況を推察し、相手の立場に立って共感しながら対応し、話をゆっくりと丁寧に聴き、まずはありのままを受けとめるようにしてください。
間違えても、行為者の肩を持つような発言や、あなたにも隙があったのではというような相談者を傷つけるような対応によりセカンドハラスメントにならないようにしてください。

ポイント3.これだけは伝えたい相談対応の具体例

一次対応

相談者が相談窓口に相談を申し入れたあと、具体的な相談日時を設定します。
ハラスメントを受けた相談者は、ストレスから心身ともに消耗していることも考えられます。
事実を申し出ることに大きな勇気も必要とします。
安心して話が聞ける場所や時間を確保しましょう。

事前準備

まず、相談内容により誰が担当するかを決めます。
セクシャルハラスメントやマタニティハラスメント場合、男性には話しにくい場合もあります。
誰だと相談者が話しやすいかという視点に立ち、相談担当者を選んでください。
対応は、男性担当者、女性担当者の複数で対応することが望ましいですが、社内の状況によっては、1人の対応もやむを得ません。
次に、相談者が相談しやすいようプライバシーに配慮した会議室等を確保します。
相談時間は60分前後が目安です。ゆっくり話しが聞ける時間も確保しましょう。

面接開始場面

ハラスメントは内容的に話しづらいことが多いので、相談者が安心して話せるようにします。
まず、相談者が入室したら、あたたかい表情で迎え入れ席を勧めます。
面接開始場面では、相談者が安心して話せるよう、必ず次のことを伝えお互いに合意したところから面接を開始します。

・話しやすい雰囲気づくりのための言葉かけ
・相談担当者の名乗り、役割説明
・守秘義務と開示する場合は、必ず本人の了承を得ること
・相談者にとって不利益な取り扱いはしないこと
・時間はどれぐらい確保しているのか
・メモを取りながら聴くことへの了承を得る

 

(例)
こんにちは。○○さんですね。
お待ちしていました。どうぞおかけください。
(話しやすい雰囲気づくりのための言葉かけ)
 
私、相談担当者の△△です。
人事・総務部門に所属しておりハラスメント相談窓口を担当しております。
よろしくお願いします。
(相談担当者の名乗り、役割説明)
 
これからお話しをお伺いしますが、ここでお話しになったことが外部に漏れることはありません。
ただ、お話しの内容によって開示する必要があれば、必ず○○さんのご了解を得るようにします。
○○さんのご了解なしに外部に連絡することはありません。
また相談したことで、○○さんが不利益を受けることはありませんので、どうぞ安心してお話ししてください。
(守秘義務と開示する場合は、必ず本人の了承を得ること)
(相談者にとって不利益な取り扱いはしないこと)
 
今日は、これから~時まで時間をお取りしています。
○○さんが話しやすいところからで構いませんので、どうぞ安心してお話ししてください。
(時間はどれぐらい確保しているのか)
 
ふと正確にお話しを理解するためにも、メモを取らせていただきます。
どこかに公表するものではありませんので、ご安心ください。
(メモを取りながら聴くことへの了承を得る)
事実関係の確認・整理

相談者の話をゆっくり丁寧に聞きながら、事実を確認、整理していきます。
確認を急ぐあまり話をせかすことや、矢継ぎ早の質問で相談者を責めるような聴き方にならないように注意しましょう。
確認が必要な内容は次の通りです。
順番は気にすることはありません。
話の流れの中で事実関係を確認、整理していくようにしましょう。
 
①行為者は誰か
 
②問題行為と問題行為がいつ,どこで,どのように行われたか
日時、場所、具体的問題行為となる内容
目撃者はいるか
ハラスメント行為につながるきっかけとなった出来事はあるか
繰り返し行われているか(頻度、期間)
 

③相談者はどのように対応したか
やめて欲しいという意思表示をしたのか
意思表示をしなかった場合はその理由
 

④他の人に対しても同様の行為はあるか
 

⑤現在の相談者の心身の状態
メンタル不全のような症状や反応がないか
 
⑥現在の行為者との関係
問題行為により仕事に支障はないか
 

⑨どのような解決を望んでいるか
話を聴いて欲しい
行為者に謝罪して欲しい
行為者との接点をなくして欲しい(異動希望など)
行為者に厳重注意・警告して欲しい
行為者への懲戒処分を求める

面接終了時に伝えること

事実関係について確認、整理ができたところで面接終了となりますが、面接終了時にも相談者の心情に配慮し、相談者が後で不安に思うことのないよう、下記のようなことを伝えておくようにしましょう。
①ここまで聞いた話に間違いがないか確認
②希望する解決方法の再確認
③今後どういう風に進むのか、調査に要する時間の見通し等を伝える
④解決にあたり、行為者や第三者にヒアリングすることに対し、相談者の同意を得る
⑤ ④の際に、相談内容の開示範囲をあらかじめ相談者に説明しておく
⑦何かあればいつでも連絡して欲しいことを伝え、連絡先を伝えておく

行為者面接・第三者面接で気をつけること

行為者の面接で気をつけることは、最初から行為者と決めつけるような態度や表現は慎むこと、行為者もハラスメントと言われて戸惑っているかもしれないので、行為者自身にも弁明の機会を十分に与えるようにしてください。
相談担当者は中立的な姿勢で毅然とした態度を取ることが大切です。

 
・情報が漏れやすいので人数は絞る
・必要な部分以外は開示しない
・客観的な表現を用いる
・個人間の問題ではなく雇用の問題
 

ポイント4.相談担当者が身につけるべき「傾聴スキル」

相談担当者として身につけたいスキルは「コミュニケーション」「傾聴」のスキルです。
ハラスメント事案の解決にあたっては、相談者の話を聴き、気持ちや問題を整理しながら聴くことが求められます。
相談対応の再に、ありのままの事実や気持ちを話してもらうために「傾聴」のスキルを身につけておくことが大切です。

求められる傾聴の態度

相談者に安心感を持ってもらい、心を開いてありのままの事実や気持ちを話してもらうために大きく2つの基本的態度が求められます。
 

①受容的態度
批判や非難の目を向けることなく、受容的な態度で相談者に接し、肯定も否定もせずそのまま受け止めること。

(例)
あたたかいまなざしで相談者の話をゆっくりうなずきながら話を聴く

 

②共感的理解
表面的に同感や同調、同情するのとはなく、相談者が事案に対し、どのように感じているか、考えているかを理解し、相談担当者が感じ取った相談者の気持ちを相談者に伝えること。

(例)
「それは辛かったですね」「大変な思いをされましたね」
身につけたい傾聴技法

相談担当者が傾聴することにより、相談者は自分を理解してくれていると感じ、信頼感がアップし、相談者との間に信頼関係を構築することができます。
相談者は安心して自分の本当の気持ちや事実を話すことができ、解決すべき問題を自分で捉えることにもつながります。
問題解決に向けて具体的援助をするためにも傾聴技法は、相談担当者が身につけたい基礎的スキルです。
傾聴技法というと、うなずき・あいづちがあげられますが、それ以外の傾聴技法をご紹介いたします。
 

①「事柄のくりかえし」
相談者が話した事実や出来事、状況などの中からキーワードを繰り返します。
キーワードを繰り返すことで、話を聴いていることが相手に伝わり、相談担当者自身も理解が深まります。
 
②「感情への応答」
相談者が言語化した感情表現があれば、その言葉を繰り返します(伝え返す)。
相談担当者が共感的に理解したことも伝わり、相談者も自分の気持ちを客観的に捉えることができます。
 

③「要約」
相談者の話の要旨をまとめて復唱し、相談者に伝え返します。
相談者の話が長くなったり、何度も同じことを話され話がわかりにくい場合などに、一区切りついたところで、区切り要点をまとめて伝えてください。
 

身につけたい傾聴技法
 

NGな言動
相談を聴くときにしてはいけない態度

・「腕を組む」「足を組む」
上から目線で話しを聞かれていると感じ、自分の話を拒絶されていると受け取られます。
相談担当者は、少し前傾姿勢で座りゆったり話を聴くようにしてください。
 

・「時計を気にする」
相談者を不安にさせます。
時間的制約があるのであれば、あらかじめそのことを相談者に伝えておくようにしてください。

その他、話の腰を折ったり、質問攻めにして詰問するようになることもNGです。

言ってはいけない言葉

下記にあてはまる言葉は「セカンドハラスメント」を生みかねないため、特に注意が必要です。
 

① 相談相手を非難する


「あなたにもスキ(問題)があった」「あなたも悪かったんじゃない」

 

② 我慢するよう説教


「それぐらい我慢したら?」「みんな我慢してるよ」

 

③問題を軽くとらえる


「あなたの考えすぎじゃない?」

 

④行為者を擁護する


「あの人がそんなことするなんて思えない」「あの人、仕事(指導)熱心だからね」

ポイント5.相談対応前に準備したい面接記録表

相談対応前に準備したい面接記録表相談担当者が話を聴いたあとは、必ず「面接記録表」に記録を残すようにしてください。
相談を聞きなが取るのはメモ程度とし、終わったあと忘れないうちに記録することをオススメします。
相談者の情報、内容、ハラスメントと感じた具体的な言動、その言動に対しどのような対応を取ったか、どれぐらい続いているのか、他の社員に対しても同じような言動があるか、どのような対応を望むかなど、あらかじめ記録表を決めておき相談対応の中で聞くようにしてください。
面接記録表は、厚生労働省「明るい職場応援団」の資料ダウンロードページにあります。
参考にしてください。
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/doc/pawahara_sodan.pdf

まとめ

相談担当者の対応・対処が迅速かつ適切でないと、問題があっても相談には訪れず、職場でのハラスメント問題がそのままとなり、働く人の意欲が低下し、休職、退職につながります。
また、公的機関に直接、相談に行き問題がより深刻化することも考えられます。
迅速に対応することも大切ですが、根本的な問題解決となる、ハラスメントが起こらない職場環境づくりを行い、ハラスメント防止研修を全社員に毎年行うなど、相談担当者が主体となって取組み、ハラスメントのない明るい職場づくりを是非、行ってください。
「ハラスメント相談窓口」開設にあたり、これだけは押さえておきたい5つのポイント

このコーナーでは、専門家によるコラムをお届けしています。

講師からのメッセージ

SANAE MURATA村田 早苗

                           

ハラスメント防止コンサルタント シニア産業カウンセラー

                           この講師の詳細ページへ
               

 

                   

関連するテーマRelated Theme

               

関連記事Related Column

  • sb-bnr-pickup.png
  • sb-bnr-concierge.png
  • sb-bnr-collaboration.png
  • Withコロナ時代の研修対策
  • Zoom研修/セミナーテクニカルサポート派遣
  • sb-bnr-jpia.png