テレワーク時代の働き方!「ジョブ型」を成功させる!評価の仕組みや人材育成とは?
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ニューノーマルな働き方として注目される「ジョブ型」
実は何年も前から、働き方を根本的に見直さなければならない、企業はワークライフバランスの実現に取り組まなければならない、と言われてきた中でのできごとです。
つまり、これからコロナ禍が終息したとしても、もう元に戻ることはありません。
テレワークや在宅勤務への動きは後戻りすることなく、より加速することになるでしょう。
ウィズコロナ、アフターコロナの時代には、働き方が変わります。
働き方が変わると、人事制度や評価制度、雇用の考え方も変わってきます。
そこで、ここではテレワークや在宅勤務に適した仕組みと言われている「ジョブ型」の人事制度と、「ジョブ型」への働き方改革を成功させる人材育成について考えていきます。
はじめに コロナ禍が後押ししたテレワークと「ジョブ型」
2020年2月27日に安倍首相は、全国の小中高校に臨時休校を要請しました。
4月7日には緊急事態宣言が7都府県に発令され、約10日後には全国に拡大されました。
これらを機に、多くの企業がテレワーク、在宅勤務を一斉に導入するようになって、テレワーク、在宅勤務を余儀なくされた人が一気に増えていきます。
さかのぼれば、「働き方改革」という名の下で勤務時間・勤務体制のあり方を見直していた最中に起こったできごとです。
昨年(2019年)4月には、「働き方改革関連法」が施行され、企業に対して、特に大企業に外的な圧力が加わります。
しかしながら、本気で働き方を変えようと取り組む企業はまだまだ少ない状況でした。
このように見てくると、コロナの影響でテレワーク、在宅勤務が普及したというよりも、新しい働き方への改革を進めている中で、さらにニューノーマルへの動きを加速するよう背中を押されただけということではないでしょうか。
つまり、テレワーク、在宅勤務を急遽実施したことによって表出した課題もあったでしょうが、たとえコロナ禍が終息したとしても、テレワーク、在宅勤務へと働き方を改革する動きが変わることはないということです。
すでに日本を代表する大企業の日立や富士通がテレワーク、在宅勤務を中心とする働き方に舵を切りました。
あわせて、日立、富士通、資生堂が「ジョブ型」の人事制度へ改革することを発表しています。
今後は、大手企業を皮切りに、日立や富士通、資生堂の動きを追随する企業が増えてくることは間違いないでしょう。
テレワーク、在宅勤務を経験したことで「仕事はオフィスでしかできない」という過去の慣習的な常識が見直されました。
時間と環境の制約によって、「不要な業務」と「必要な本来の業務」がそれぞれ何なのか、改めて見直すきっかけになりました。
さらにテレワーク、在宅勤務が本格的に普及してくると、企業で働く一人一人が、「自分の果たすべき役割」、「やるべき仕事は何なのか?」を考え直すことになっていくでしょう。
withコロナ、afterコロナのニューノーマルな働き方に変わると、それを支える人事制度、勤務制度、雇用も変えていくことになります。
具体的には、これまで日本の多くの企業が取り入れていた「メンバーシップ型」の人事制度から、「ジョブ型」の人事制度に変わる必要があると考えられています。
もともと欧米の企業が主流としていた「ジョブ型」の制度は、職務、役割、条件などを明確に定めて、一人一人のスキル、成果を重視する仕組みです。
働く人材としては、自分の能力や経験、スキルを活かして報酬を得られるメリットがあります。
「ジョブ型」の人事制度へ移行する企業においては、制度や仕組みを整えることはもちろん、自身のキャリアを主体的に考える人材を適切にマネジメントする、組織やチームとして成果を上げるような施策や取り組みも必要になってきます。
それではここからは、テレワーク、在宅勤務という働き方における「ジョブ型」の人事制度とは何か、「ジョブ型」で成果を得るための組織と人材育成についてみていきましょう。
テレワークに適した働き方は「ジョブ型」?
雇用における「メンバーシップ型」と「ジョブ型」の違い
「メンバーシップ型」、「ジョブ型」は、雇用形態として説明されることが多いです。
これは、「ジョブ型」を主流としている欧米の企業での働き方が、職務を条件とした雇用契約、すなわち企業と働く人との約束で定められていることに起因しています。
ここでは最初に、雇用形態としての「メンバーシップ型」と「ジョブ型」の違いについて説明します。
「メンバーシップ型」雇用とは、日本で主流の雇用形態ともいえる「人に対して仕事を割り当てる」ように雇用する仕組みです。
新卒で採用した社員を、終身雇用を前提にジョブローテーションによって幅広い職種を体験させ、ゼネラリストとして養成するのに適しています。
企業・会社に就く、いわゆる「就社」というイメージです。
企業と人材のメリットとしては、終身雇用が前提の安定した雇用の中で、企業は長期間にわたって人材を育成することができます。
そのため、企業は長期の視点での人材開発制度(新入社員研修、階層別研修、幹部候補育成研修など)を用意して提供します。
「ジョブ型」雇用は、「メンバーシップ型」とは逆に「仕事に対して人を割り当てる」採用の仕組みです。
欧米などの海外の企業では主流の雇用形態ですが、日本でもスタートアップ企業など取り入れる企業は増えています。
具体的には、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を作成して、職務に加えて勤務地・労働時間・報酬などの条件も明確に記述します。
そして、必要な能力を持った人材を雇用してその職務に割り当てる、働く人からみると「職に就く」=「就職」のイメージの雇用制度です。
「ジョブ型」のメリットは、自分の能力や経験、スキルを活かせる職務に就けることがあります。
企業としては、仕事に必要な能力を持った最適な人材を配置できるため、目標とする仕事の成果を達成しやすいというメリットがあります。
また、このように仕事・職務を中心に考える「ジョブ型」が注目されるようになった背景には、2020年(中小企業は2021年)から同一労働同一賃金のルールが導入されたことがあります。
同一労働同一賃金のルールによって「同じ仕事に就いている限り、正社員・非正社員であるかは関係なく、同一の賃金を支給する」ことになりました。
「メンバーシップ型」での年功序列の制度は、年齢や勤続年数によって給与が決まっていくため、同一労働同一賃金ルールとは相反する側面があります。
そこで、同一労働同一賃金のルールに従うためにも、仕事の内容によって賃金が決定する「ジョブ型」の雇用制度に移行していくことになると考えられています。
テレワーク環境での評価は「ジョブ型」が前提?
このように職務と成果をベースとした「ジョブ型」は、場所や時間に制約されない新しい働き方であるテレワーク、在宅勤務とは相性が良さそうです。
そのため、勤務制度としてのテレワーク、在宅勤務と、人事制度としての「ジョブ型」は、ペアにして組み合わせて導入され、定着していくと考えられています。
緊急事態宣言が解除された後も、働き方を「新しい日常」、ニューノーマルに変えることが求められています。
7月26日に西村経済再生担当大臣は「テレワーク70%」への協力を産業界に呼びかけました。
もう以前のように一斉出社することが当たり前ではなくなりつつあります。
テレワーク、在宅勤務での人事制度を「ジョブ型」に移行するにあたり、現在の勤務制度、人事制度では成り立たない部分があるので、企業側は制度を改革していくことになります。
「ジョブ型」の人事制度に関係する側面には様々なものがあります。
(1) 新卒一括採用主体から通年採用、中途採用に変える採用の仕組み
(2) 業務プロセスの見直し、業務に使用するツールの変更・改修、インフラの整備
(3) 「ジョブ型」を基軸とするように給与体系の再構成
(4) テレワークを前提とした手当の改廃や新設など制度の整備
(5) 成果を報酬に反映する「ジョブ型」評価制度への移行
ここでは、5つの要素を上げてみました。この中でも、テレワーク、在宅勤務でしばしば論点に上げられる評価制度について特に詳しくみていきます。
オフィスに出社していれば、上司の目が行き届き、上司が部下の仕事への取り組み方やモチベーションなどを直接チェックできます。
しかし、テレワーク、在宅勤務では、上司が部下の仕事ぶりを直接観察することはできません。
また、コミュニケーションの難しさもあります。
オフィスでは、社員同士が直接顔を合わせるので、綿密な情報交換が可能ですが、一方、テレワークになると、対面でのやり取りが減り、コミュニケーションの質やスピードも低下しがちです。
株式会社あしたのチームの調査によると、テレワーク時の人事評価が「難しい」と回答した人は、73.3%に上ります。上司と部下のコミュニケーションが減ることについて、一般社員が「人間関係のストレスがなく気楽」と回答しているのとは裏腹に、管理職は「さみしい」と感じているようです。
これまでの「メンバーシップ型」では、仕事の成果にいたるまでのプロセスや、社員の「ふるまい」「仕事ぶり」といった勤務態度も評価項目に加えていました。
しかし、テレワーク、在宅勤務では、上司にとって評価の材料が減ってしまうために、「評価が難しい」と考えてしまうことになるのでしょう。
「ジョブ型」における人事評価では、担当する職務において、実際に「どのような成果」を出したかで評価を決定します。
さらには、評価された成果が、そのまま報酬に反映されることになります。
つまり、常に上司が部下を観察している環境にはないテレワーク、在宅勤務においては、プロセスや勤務態度よりも職務の成果を重視する「ジョブ型」の評価が適していることの理由はここにあります。
「ジョブ型」にすれば、自分の仕事ぶりを常に観察、監視されているというストレスやプレッシャーが減って、仕事の効率、生産性が向上して働くモチベーション、満足度も上がるという正のスパイラルも期待できます。
特に、難易度の高い仕事に就いて、しっかりパフォーマンスを出して、優れた成果を上げている人には、望ましい仕組みだと言えます。
ただし、部下が納得できるように評価するための上司のマネジメント、成果の評価に対して適切な報酬を支払う給与体系を構築することが求められてくるでしょう。
さらには、人材市場の基準に合った評価システム、他社や外部の指標と同じような報酬体系になっていないと、有能な人材が外部に流出するリスクが高くなり、適切な人材が確保できなくなることには注意が必要です。
日本企業に適した「ジョブ型」がある?
ここまででは、テレワーク、在宅勤務というニューノーマルな働き方に適した人事制度は「ジョブ型」であることを述べてきました。
しかし、長い間「メンバーシップ型」が当たり前であった日本の企業に、はたして「ジョブ型」が新たな人事制度、新しい働き方のモデルとして定着し、広く浸透していくでしょうか。
ここでは、日本企業に「ジョブ型」を導入するための課題、日本の組織や人材との相性を考えてみます。
日本の企業に、欧米と同様なグローバルなルールを持ち込むことには懐疑的な意見もあり、「ジョブ型」導入には、賛否両論があるようです。
「ジョブ型」への転換に意義をとなえる理由として、世界で戦う日本の企業の強み、つまり日本らしさを失ってしまうことへの懸念もあります。
ここでは、日本の企業が「ジョブ型」の人事制度へ変わるにあたっての課題という視点で3つのポイントから考えていきたいと思います。
課題の第1は、欧米での「ジョブ型」の仕組みは人材の流動性が高いこと、労働移動を前提にしていることがあげられます。
「ジョブ型」では「仕事に対して人を割り当てる」ため、職務と人材の関係が固定されます。つまり、ある社員は特定の職務に限定して雇用されて働くため、何らかの事情でその職務が不要になった場合、その後の人材の扱いようがありません。
労働市場が流動的で転職が容易な欧米では、企業は解雇という手段をとることになります。しかし、日本では人材の流動性への考え方や土壌が欧米のようにはなっていません。
課題の第2は、日本の企業の大部分を占める中小企業などでは、特定の職務だけこなせる、職務を固定した人材よりも、複数の仕事をこなせる「多能工」的な人材を求めているところが多いことがあります。
これは、企業での仕事が職務として、きれいに分割されていないこと、人材と職務を1対1で割り当てるように整理されていないことが理由と考えられます。
つまり、社員一人分の労働力と報酬・給与に見合った職務を定義することが難しく、何でもできる人材が望ましいということがあります。
第3の課題は、企業にとって、より本質的です。
「職務記述書(ジョブディスクリプション)」に職務内容を細かく記載しておく欧米流の「ジョブ型」は、安定した経営環境を想定しています。
社会環境や市場環境が激しく変化している現在では、企業としても職務内容や仕事の割り振りを自由に柔軟に変えられる方が望ましく、「ジョブ型」では柔軟性に欠ける面があります。
Withコロナ、afterコロナの新しい働き方であるはずの「ジョブ型」が、先の見えない劇的な変化へ柔軟に適応することとは相反するというのは、致命的なデメリットのようにも思えます。
それでは、これら3つの課題を解決できる日本の企業と相性のいい、日本らしさを取り入れた仕組みはあるのでしょうか。
そこで期待されるのが、「メンバーシップ型」でも「ジョブ型」でもない、フリーランス的な働き方だと言われています。
例えばシリコンバレーでは、世界中のフリーランスとのネットワークを使って、プロジェクトごとにチームを組んで開発やデザインを行うスタイルが広がっています。
日本でもIT系の企業を中心に、社内外から各分野の専門家を集めてプロジェクトベースで仕事をすることが基本になってきています。
このように、それぞれの役割や専門性を持った人材が集まってチームを組むというやり方は、あらかじめ定めておいた職務に人を割り当てる「ジョブ型」とは少し形が異なります。
働く側の人材としても、与えられた職務をこなして成果を上げることにとどまらず、プロジェクトのメンバーとして自分の役割や価値を提供していく、より自立したポジティブな働き方、まさにフリーランスのような働き方を実践することになります。
もともと仕事の属人性が高いと言われていた日本には、近代まで職人や自営業者が多数を占めた歴史があります。
ある意味で自営業者のようなスキルとマインドを持ったフリーランス的な働き方は、日本の企業が求めている一種の多能工でもあり、日本の社会や文化にも馴染みやすいのではないでしょうか。
IT技術とデジタル社会の進展により、仕事のアウトソーシングや人材のネットワーク作りが簡単にできるようになってきました。
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が発表した「フリーランス白書2020」によると、日本国内における広義のフリーランス人口は2020年には462万人へと急増しています。
また「今の仕事や働き方の問題を解消する、または満足度を高めるための取り組み」として、会社員の46.4%が「フリーランス」を考えていると回答しており、今後の新しい働き方として大きな流れになってくるでしょう。
プロジェクトをベースにチームで働くことが当たり前になってくると、「ジョブ型」も古臭い仕組みになってくるかもしれません。
日本の企業は、もう一歩先を見据えて、別の新しいスタイルを目指すべきなのではないでしょうか。
「ジョブ型」への働き方改革を進めるには?
「ジョブ型」での評価は目標管理(MBO)が基本
それでは、新しい働き方であるテレワーク、在宅勤務へと改革を進めるには、人事制度や評価制度を「ジョブ型」に適した仕組みに変えていくには、どうすればいいのでしょうか?
ここからは、特に、テレワーク、在宅勤務の環境に変わると難しくなる人事評価に注目して、働き方の改革には何が必要なのかをみていきます。
職務と成果を基本とした「ジョブ型」の働き方においては、職務で求められた仕事の成果を達成できたかどうかで評価を決定します。
このように仕事の成果を中心とする「成果主義」の評価制度は、多くの場合に目標管理(MBO)という仕組みによって運用されます。
目標管理(MBO)制度は、英語でManagement By Objectivesといい、マネジメントで有名なピーター・ドラッカーが提唱しました。
組織やグループ、または個人で目標を設定し、その達成度合いで評価を決める仕組みです。
「MBO評価」ということもあります。
目標管理(MBO)は、現在日本でも多くの企業で用いられている人事制度です。
一般財団法人労務行政研究所の調査によると、2018年に目標による管理制度を運用して実施している企業は79.3%という高い数値が出ています。
一般的に目標管理(MBO)を導入する目的は4つあると言われています。
(1) 組織の目標達成
(2) 社員の主体性や自己管理能力の向上
(3) 上司が部下をマネジメントする仕組み
(4) 人事評価への反映
個人の目標は、これら4つの目的に沿って、組織貢献と自己成長の両方を達成できるように設定します。
社員一人ひとりの目標を、経営目標や部門目標と連動させることで、業績アップを目指します。
加えて、個人が目標の進捗と達成度を主体的に自己管理するとともに、自分自身も成長していくことが求められます。
人事評価では、評価の対象となる期間の終了後に、個人が設定した目標の達成度で評価を行います。
もし仮に、目標が達成できなかったとしても、次の期には目標が実現できるように、自己評価と上長評価をすり合わせて、課題を明確にしていくフィードバックも実施します。
このように、成果主義の考え方で、設定した目標の進捗や達成度をマネジメントしていく目標管理(MBO)の仕組みは、仕事や職務の結果や成果に注目する「ジョブ型」との相性は良さそうです。
「ジョブ型」のために作られた評価制度のようにさえ思えます。
しかしながら、多くの日本の企業が目標管理を実施している一方で、「ジョブ型」での人事評価は難しいと考えているのは、なぜなのでしょうか?
目標管理での評価は、「ジョブ型」には相応しくないのでしょうか?
従来の目標管理を「ジョブ型」の人事評価として用いることに違和感を覚えるのには、理由があります。
主な理由としては、もともと目標管理の仕組みは、評価をするためのツールとして作られたのではなく、マネジメントのやり方として考え出されたことがあります。
目標管理では、社員は「自分にとって望ましい目標」を自ら設定して、上司は、その達成に向けたサポートをしていきます。
つまり、目標管理は、目標の設定と進捗の管理に個人の主体性を発揮させて、自らの仕事ぶりを自己管理することで、内発的な動機付けを促すものです。
ドラッカーがMBOを提唱した真意もここにありました。
一方、「ジョブ型」では、職務の役割と期待される成果、すなわち目標は、あらかじめ定められます。
その決められた目標に対して、その目標を担当する人材を割り当てます。
このように、「ジョブ型」と目標管理(MBO)では、目標設定の仕方に違いがあります。
そこで、目標の設定を「ジョブ型」に合わせた形に変えることができれば、目標管理の仕組みを利用することができそうです。
そもそも成果をベースにした評価を前提としている「ジョブ型」は、目標とする成果を達成する仕事の進め方や進捗管理は一人ひとりの人材の主体性に委ねられます。
逆に、たとえ「ジョブ型」であっても、上司の役割として、本人に任せっ放しではなく、必要なタイミングで仕事のプロセスや進捗管理に介入することは、目標管理(MBO)と同様と考えていいでしょう。
したがって、「ジョブ型」においても、目標を達成させるマネジメントや評価の手法には、目標管理の仕組みを、そのまま利用することができるでしょう。
ここまでをまとめると、設定する目標、すなわち目標設定の考え方を変えることによって、「ジョブ型」の人事評価に、目標管理を利用することができます。
なお、最近ではMBOに変わって、Google社が採用しているOKRが注目されています。
OKRでは、MBOよりも定性的で挑戦的な目標(Objective)を設定してチャレンジさせることを重視します。
OKRはMBOを発展させたものであり、広義の目標管理として、ここでは特に区別しないことにします。
「ジョブ型」をマネジメントできる人材の育成
では、「ジョブ型」をマネジメントできる、「ジョブ型」での仕事の成果を適切に評価できるのは、どのような人材なのでしょうか?
そのような人材は、どうやって育成していけばいいのでしょうか?
目標の設定を工夫することによって、「ジョブ型」のマネジメントと人事評価に、目標管理を適用できることは、ここまでで述べてきました。
「ジョブ型」は「職務記述書(ジョブディスクリプション)」で定めた職務に、人を割り当てます。職務の中には、担当する人材への期待や役割、担当する職務での成果目標が、あらかじめ決められています。
そして、定められた職務と期待される成果から目標を設定して、目標管理していくことになります。
こう考えてみると、「ジョブ型」をマネジメントするポイントは、「職務」と「成果」、「目標」の設定にありそうです。
先ず、「ジョブ型」の「職務」と「成果」、目標管理の「目標」は、誰が決めるべきなのかを考えてみましょう。
「職務」と「目標」を決めるのは、人事部門でしょうか?
経営企画のような全社部門でしょうか?
それとも、現場の部門や組織でしょうか?
この質問への答えは、「ジョブ型」をマネジメントできる人材として、誰を育成すべきなのかを教えてくれます。
「ジョブ型」の働き方にしろ、「目標管理」にしろ、組織や部門が目指すゴールは、成果を通じた業績への貢献であり、その役割を果たすために、自分の部門や組織の目標を設定するのは、現場のマネジメント人材です。
したがって、答えは、現場のマネージャー、組織や部門のリーダーです。
育成すべき人材が明らかになったところで、目標設定の持つ意味合いと、マネジメント人材に求められるスキルについて考えていきます。
ここで、もう一度、目標管理について振り返ってみましょう。
Management By Objectivesをそのまま日本語訳すると、「目標による管理」になります。
「設定した目標(の進捗と達成具合)を管理する」という意味ではありません。
つまり、「目標による管理」とは、全社的な業績をアップさせるために、企業や組織の業績に貢献する成果を上げるように、目標を設定することに他なりません。
しかしながら、目標設定が難しいことは、目標管理(MBO)のデメリットに上げられている3つの項目にも表れています。
(1) 高評価を得るため個人の目標を低めに設定しがち
(2) 目標に設定した業務以外には取り組む意欲が下がる
(3) 本人個人に目標設定のスキルが必要なため目標設定の段階でつまずく
これらの多くは目標設定の難しさ、運用における間違いが原因になっています。
私は、かれこれ15年以上の間、管理職、部門長として、目標管理による成果主義での目標設定と人事評価に関わってきました。
その経験の中で、目標の設定と結果の達成度の評価には常に気を配り、頭を悩ませてきました。
期初の目標設定時には頭を振り絞って考えに考え抜き、期末の評価とフィードバックの時期には胃が痛くなることが何度もありました。
マネージャーあるいは組織の長を経験された方は、思い当たることがあるかもしれません。
これら経験を経て、組織としての成果を出して企業の業績アップに貢献するには、適切な目標を上手に設定することが、最も重要だということを実感してきました。
では、適切な目標設定ができるようになるには、どんなスキルが必要なのでしょうか?
これまでは目標管理のマネジメントとして、個人の目標設定と進捗管理、評価とフィードバックには着目して人材を育成してきました。
しかしながら、「職務」と「成果」、「目標」を設定するには、部門や組織の職務と役割を構造化して分解することができる概念形成のスキルが必要だと考えています。
このような職務を概念化して構造化する目標設定のスキルについては、これまでは十分に育成してこなかったのではないでしょうか。
このスキルの不足が、目標管理のデメリットとして目標設定に問題を生じさせる原因にもなっていると考えています。
テレワーク、在宅勤務での「ジョブ型」の人事制度、評価制度と目標管理とを上手く組み合わせてマネジメントできるのは、概念化と構造的に分解できるスキルを備えたマネジメント人材です。
このようなマネジメント人材こそが、「職務」と「成果」、「目標」を適切に設定して「ジョブ型」の仕組みと目標管理の制度を正しく運用することができます。
リーダーやマネージャーは、組織や部門が達成すべき目標や成果を、個人の職務や目標にブレークダウンできる必要があります。
言い換えれば、組織や部門の役割と職務を構造化して分解するスキルが求められるのです。
この職務の分解と一人一人のメンバーへの割当てが上手くできると、それぞれの目標を達成することが組織や部門の成果に直結する、まさにManagement By Objectives(目標による管理)を実現できると考えています。
組織と仕組みを「ジョブ型」に変える
それでは最後に、「ジョブ型」の働き方と目標管理による評価を活用してニューノーマルな組織と仕組みに変えるにはどうすればいいかを考えていきましょう。
ウィズコロナ、アフターコロナの時代には、プロジェクトベースにチームで働くことが当たり前になってくることを延べました。
このテレワーク、在宅勤務とも相性がいい新しい働き方は、型通りの「ジョブ型」ではなく、フリーランスのような自立したポジティブな働き方であり、職人や自営業者という日本の企業や文化にもマッチした形態です。
このように働き方が変わると、リーダーやマネージャーに対しても、自立したスキルとマインドを持った人材を集めたチームやプロジェクトをマネジメントするスキルが求められてきます。
特定の職務に専門性を持った人材、いわゆる「ジョブ型」で働く人材のマネジメントでは、担当する職務で定められた目標に沿って、成果をモニタリングして管理することになるでしょう。
しかし、フリーランスや自営業者のような、ある程度まとまった仕事ができる多能工的な人材のマネジメントには、シンプルな目標管理とは違った難しさがあります。
なぜならば、職務のスキルが高く多様な人材が集まったチームが高い成果を出すには、あらかじめプロジェクトに必要な職務を定めて人をアサインする従来のやり方よりも、メンバー個々の専門性とスキルに合わせて、メンバーの役割と職務を柔軟に変えていく方が望ましいからです。
つまり、一人一人の人材に注目するだけではなく、チームとしての自立と成長のスキルに期待する方が高い成果が出せるのです。
それでは次に、チーム作りとプロジェクトのマネジメントについて考えてみます。
チームのメンバーがやるべきことに集中し、質の高い仕事をしてチームの成果を出すために、まず重要なのは、仕事をどのように定義するかです。
仕事とは、チームとしてやるべきこと、個々のメンバーがやるべきことであり、「ジョブ型」の職務と言い換えてもいいでしょう。
つまり、チームの目的、目標をはっきりさせることはもちろん、チームの目標を達成するためプロジェクトでやるべき仕事や職務に分解していくことが大事なポイントになります。
「やるべきこと」に集中して分解すれば、無駄なことには意識がいかなくなり、余裕が生まれやすく、整理された仕事や職務もシンプルで、かつ、少なくて済むようになります。
テレワーク、在宅勤務を実行したことによって、「不要な業務では?」、あるいは、「今、本当にやるべき業務なのか?」と考え直すきっかけを得たことと似ています。
望ましいチーム作りをするには、この業務の整理に意識的に取り組む姿勢が必要なのです。
これは、目標管理(MBO)のところで説明した目標設定のスキルとも似ています。
業務を分解して整理することは、その業務における目標を構造化して整理することと同じ意味合いです。
新しい目標管理制度として注目されているOKRは、定性的なObjectives(目標)と定量的なKey Results(主要な結果)をつなぎ合わせる手法ですが、OKRにおいても目標を仕事や業務に分解して構造化するという基礎となる部分は共通しています。
これからは、大企業、中小企業を問わず、起業家やクリエーターなどの外部の知見や技術を活用するために、オープンイノベーションを取り入れる企業が増えてきます。
そのため、プロジェクトをベースとしたスタイルで、自営業者やフリーランスのような人材が集まったチームで働くことが当たり前になってきます。
従って、このようなプロジェクトベースのチームで働く仕組み、チームとプロジェクトを適切にマネジメントできるスキルを持った人材の育成が求められているのです。
このような働き方では、チームのメンバーの役割や業務の分担がはっきりしており、時間や場所という労働環境に制約されず、仕事の成果による評価とも馴染みやすいため、テレワーク、在宅勤務にも適している、ニューノーマルな働き方とそれを支える仕組みのモデルになっていくことでしょう。
まとめ「ジョブ型」人材の育成で働き方改革を成功させる!
ところが突然やってきた新型コロナウイルスの影響により、待ったなしでの働き方改革、人事制度改革が迫られています。
もともと欧米では主流であった「ジョブ型」が日本でもにわかに注目されるようになったことは、何を今さらと感じることもあるでしょう。
しかし、動き出した流れを止めることはできず、もうコロナ以前に後戻りすることはできません。以前の状態に戻ろうと考えること自体がナンセンスなのかもしれません。
テレワーク、在宅勤務では、日本型企業の集団主義的な考え方による弊害である業務負担や評価の不公平さ、責任のあいまいさといった弱点が露呈したとも言われています。
その中で、抽象的で曖昧な指示だけをするチームリーダーと、やるべきことがわかっていないメンバーで構成されたチームの課題も浮き彫りになりました。
テレワーク、在宅勤務でリーダーとメンバーとのコミュニケーションが十分ではない状況において、
リーダーは、
「だからテレワークなんて機能しない。無駄なことを勝手にやりやがって」、
「いつも報告・連絡・相談をしっかりやれと言っているのに。」
という愚痴をこぼすことも多かったと思います。
しかし、この問題はテレワークや在宅勤務といった働き方とは実は関係がなく、そもそもチームとプロジェクトのマネジメントに原因があったのです。
働き方が変わることによって、組織やチームの問題、マネジメントスキルの不足が表に出ることになったのです。
「ジョブ型」の人事制度が普及して定着していくことによって、個人にとっても「キャリア形成」「複数社での勤務や副業」「独立・フリーランス」といった新しい働き方が視野に入ってきて、変化の流れは加速していきます。
人材を受け入れる企業や組織の側としても、自営業者やフリーランスのような自立した人材を前提としたチーム作り、プロジェクトのマネジメントができることが求められます。
そのために、専門性の高い多様な人材によるチームとプロジェクトをマネジメントできる人材の育成が急がれます。
新型コロナウイルスの影響が背中を押したとは言え、
先行きが不透明な時代を乗り切るために、人材の一人ひとりが自分の強みと価値を発揮できる「ジョブ型」で、プロジェクトベースでチームを組んで成果を出していく働き方に変わります。
企業は、新しい働き方に合わせた人事制度、仕組みを作り、必要なスキルを持った人材を育成していくことが必要です。
勤務制度としてのテレワークや在宅勤務、人事制度や評価制度としての「ジョブ型」と目標管理へと転換していくこと、プロジェクトとチームをマネジメントできる高いスキルを持った人材を育成することに、これからの企業の生き残りがかかっているのではないでしょうか。
進捗管理から目標設定へ、業務の割り振りから仕事の整理へ、問題解決から課題設定へ、変化の時代に対応するには、より上位の概念化、抽象化するスキルが求められています。
「ジョブ型」を導入して移行するための自立した人材の育成、組織改革とチームビルディング、プロジェクトのマネジメント力アップを実現する企業研修をご提供しています。
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