自分のコンピテンシーを知ることは役に立つか。企業は従業員のコンピテンシーを知ることによりどのような利点があるのか。
Contents
自分のコンピテンシーを知ることは役に立つか。企業は従業員のコンピテンシーを知ることによりどのような利点があるのか。
1.コンピテンシーとはなにか?
「コンピテンシー」とは、業務や目標達成において必要なスキルや行動特性のことを指します。
単なる知識や能力だけでなく、実際の業務で成果を上げるための行動や態度の総称です。コンピテンシーは、パフォーマンスの向上や職場での成功に直結するため、個人や企業にとって非常に重要です。
コンピテンシーの特徴について
・観察可能な行動として表れる
コンピテンシーは、個人の知識や能力を行動として外部に表現することで評価されます。たとえば、コミュニケーションスキルというコンピテンシーは、明確な指示を出す、適切なフィードバックを提供するなど、具体的な行動として現れます。これにより、上司や同僚がその人のパフォーマンスを客観的に観察し、評価しやすくなります。
・成果に直結する
コンピテンシーは業務の成果に直接的な影響を与えます。これは、ただ単にスキルを持っているかどうかではなく、それをどのように使いこなし、組織やプロジェクトに貢献できるかが評価されるためです。たとえば、リーダーシップのコンピテンシーが優れた人は、チームの成果を引き上げ、目標を達成しやすくする行動を常に取ります。
・開発・向上が可能
コンピテンシーは静的なものではなく、経験やトレーニングを通じて開発・向上させることが可能です。たとえば、プロジェクトマネジメントのコンピテンシーが未熟な人でも、研修や実務を通じて徐々にそのスキルを高め、リーダーシップや調整能力を向上させることができます。これは、従業員のキャリア開発においても大きな意味を持ちます。
・状況に応じて発揮される
コンピテンシーは、特定の状況や環境によってその発揮される度合いや形式が異なります。たとえば、ストレスの多い環境では、問題解決力やストレス耐性といったコンピテンシーが強く求められる一方、日常業務ではコミュニケーションや計画力が重視されることが多いです。したがって、状況に応じて異なるコンピテンシーが必要となり、それに応じた行動が期待されます。
これらの特徴は、コンピテンシーが単なるスキルの集まりではなく、具体的な状況でのパフォーマンスに直結する重要な概念であることを示しています。
2.どのようなコンピテンシーがあるのか?
コンピテンシーには様々な種類がありますが、大きく分けると以下のようなものがあります。
・専門的コンピテンシー: 業界や職種に固有の専門知識や技術力
・行動的コンピテンシー: 問題解決能力、意思決定力、計画力
・対人コンピテンシー: コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ
・個人的コンピテンシー: 自己管理力、ストレス耐性、モチベーション維持
例えば意思決定能力およびコミュニケーションのコンピテンシーとはこのようなものです。
(1) 意思決定力のコンピテンシー
『意思決定力』とは、状況を正確に分析し、適切な行動を迅速に選択できる能力を指します。特に、複雑な問題や予測不可能な事態に直面した際に、限られた情報や時間の中で最善の選択をすることが求められます。このコンピテンシーには以下のような要素が含まれます。
(a)状況分析
問題や課題の本質を理解し、関連するデータや情報を迅速かつ的確に整理する能力。これには、論理的思考や批判的思考が不可欠です。
(b)選択肢の評価
異なる選択肢の利点やリスクを比較し、長期的な視点で考慮することが重要です。意思決定には、短期的な結果だけでなく、将来的な影響も考慮する必要があります。
(c)リスク管理
意思決定には必ずリスクが伴いますが、それを適切に評価し、リスクに対処するための計画を立てる力も意思決定力の一部です。
(d)決断力と実行力
時間的制約や不確実性の中で、果断に決断を下すことが求められます。そして、決定を実行に移し、必要な行動を取ることで結果を導きます。
具体例: 経営者やリーダーは、緊急時に部門を統合したり、新しい戦略を選定する際に意思決定力を発揮します。また、プロジェクトマネージャーは、リソースの制限の中で最適なリソース配分を決めるためにこの能力を駆使します。
(2) コミュニケーションのコンピテンシー
『コミュニケーション』とは、情報や意図を効果的に伝達し、相手と円滑にやり取りする能力を指します。これは、単に話す・聞く能力に留まらず、深い相互理解と協力を生み出す力を意味します。このコンピテンシーには以下の要素が含まれます。
(a)明確なメッセージの伝達
複雑なアイデアや情報を、相手に分かりやすく伝える能力です。口頭、書面、デジタルメディアなど様々な形式での効果的なコミュニケーションが含まれます。
(b)積極的な傾聴
他者の意見や考えを理解し、反応する能力。傾聴は、相手のニーズや感情を正確に把握するための重要なスキルです。
(c)対人関係スキル
誤解を避け、相手との信頼関係を築くための感情管理や共感能力が含まれます。チームでの協力を円滑にするためにも不可欠です。
(d)フィードバックの提供と受容
建設的なフィードバックを与え、また受け入れる姿勢も重要な要素です。これは、個人やチームの成長に直接影響を与えるため、双方向のやり取りが効果的に行える必要があります。
具体例: チームリーダーは、チームメンバーに対して明確な目標や役割を伝え、メンバーの声を聞きながら適切なフィードバックを提供することで、チーム全体の生産性を向上させます。また、セールス担当者は、顧客との信頼関係を構築し、顧客のニーズを理解した上で最適な提案を行う必要があります。
このようにコンピテンシーはさらに細かいスキルや行動で構成されており、それらがバランスよく備わることによって力を発揮することがでます。また、企業がその組織に適合したコンピテンシーを開発することもあります。
3. コンピテンシーを知ることでどのようなメリットがあるのか?
1.本人にとってのメリット
自分のコンピテンシーを知ることによって以下のようなメリットがあります。
• 自己成長
自分のコンピテンシーを理解することで、具体的な成長分野が明確になります。たとえば、コミュニケーション能力が弱点と分かった場合、対話の練習やフィードバックを積極的に受ける機会を意識的に増やすことで改善が図れます。逆に、問題解決力が強みであれば、それをさらに伸ばすためのプロジェクトに参加し、自信を深めつつ、他の人に教えることで成長のスピードを加速できます。こうした具体的な行動によって、自己成長の軌道がより明確かつ計画的になります。
• キャリア開発
自分のコンピテンシーを理解することは、キャリアパス選択において重要です。たとえば、意思決定力が高い場合、管理職やリーダーシップを要する役職が適していることが明らかになります。一方、専門的な技術スキルが強みの場合、専門職や技術職を志向することで、自分の能力を最大限に活かすことができます。また、弱みを補完するための研修や資格取得など、キャリア開発のための具体的なアクションを計画的に進めることも容易になります。
• 目標設定が明確に
自分の強みと弱みを把握することで、効果的な目標設定が可能になります。たとえば、リーダーシップが足りないと感じた場合、リーダーシップ研修を受けたり、小規模なチームを任される機会を積極的に探すといった行動計画を立てることができます。逆に、すでに得意分野がある場合は、その分野でさらに高い目標(例:特定の資格取得、上級職への昇進)を設定し、そのために必要なステップ(研修、ネットワーキング、具体的な成果達成)を具体化できます。これにより、モチベーションを維持しながら、目標達成に向けた進捗管理がしやすくなります。
2.企業にとってのメリット
企業が従業員のコンピテンシーを理解すると、次のような効果が期待できます。
(1) 適材適所の配置
企業が各従業員のコンピテンシーを理解することで、最適な役割に従業員を配置でき、個々のパフォーマンスを最大化できます。例えば、意思決定力が強い従業員をプロジェクトリーダーや管理職に配置すれば、プロジェクトがスムーズに進行し、迅速な問題解決が期待できます。一方で、細かい分析やデータ管理に優れた従業員は、バックオフィス業務や専門的な分析職に配置することで、その能力を最大限発揮できます。こうした適材適所の配置により、従業員の生産性が飛躍的に向上し、組織全体の成果も向上します。
具体例として、営業職においては、優れたコミュニケーション能力と対人スキルを持つ従業員が顧客対応の第一線に立つことで、顧客満足度が向上し、売上が伸びることが期待されます。逆に、データ解析や計画立案が得意な従業員を営業戦略の策定やマーケティングに配置することで、精緻な分析に基づいた戦略が打ち出され、組織全体の競争力が高まります。
(2) 効果的な人材育成
従業員のコンピテンシーを把握することで、企業は個々の従業員の弱点や成長が必要な分野に応じた研修やスキル開発の機会を提供できます。例えば、リーダーシップが不足している従業員にはリーダーシップトレーニングを実施し、技術力が不足している従業員には専門的な技術研修を提供するなど、カスタマイズされた育成プログラムを展開できます。
このように、個別のニーズに合った育成を行うことで、従業員の能力が適切に強化されるだけでなく、組織全体としての生産性向上が期待できます。さらに、従業員は自分の成長に向けたサポートを感じるため、エンゲージメントが高まり、自己成長意欲がさらに促進されるという二重の効果が生まれます。
(3) モチベーション向上
企業が従業員のコンピテンシーを正しく評価し、適切な役割を与えることで、従業員は自分の強みが正当に認識されていると感じ、モチベーションが向上します。これにより、従業員が主体的に仕事に取り組むようになり、組織への忠誠心やエンゲージメントが高まります。また、正しい役割を与えられた従業員はストレスが減少し、業務に対する満足度が向上するため、離職率の低下にもつながります。
たとえば、創造性に優れた従業員をプロダクト開発やマーケティングキャンペーンの企画に配置することで、その才能を活かしやすい環境が整います。
一方、社内の調整役やサポートを得意とする従業員が、業務プロセスの調整やチーム内の潤滑油として活躍するポジションに就けば、職場全体の業務が円滑に進むだけでなく、従業員自身も達成感を得られます。これにより、従業員の意欲と定着率が上がり、組織全体のパフォーマンスが向上します。
たとえばGoogleは従業員の貢献度を客観的に評価するために、コンピテンシーに基づいた評価制度を導入しています。また、デロイトは新入社員から上級コンサルタントまで、各段階で必要なコンピテンシーを育成しています。
多くのメリットがあることが分かっているのにも関わらず、個人も企業もあまり活用されていないようです。その原因の一つに、次に説明するコンピテンシーを測る方法が一般化されていないことがあると思われます。
4. 自分のコンピテンシーを知るためにはどうしたらよいのか?
自分のコンピテンシーを把握することは、自己成長やキャリア開発において非常に重要です。以下に、効果的な方法とツールを紹介します。
1.自己分析ツールの活用
さまざまな自己分析ツールを利用することで、自分の強みや弱み、行動特性を客観的に理解できます。
•コンピテンシー評価テスト
コンピテンシーに特化した評価テストを受けることで、自分がどのような能力やスキルを持っているかを詳細に把握できます。これにより、自分に最も適した職務や成長領域が明らかになります。
•パーソナリティ診断
例えば、MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)やBig Fiveなどのパーソナリティ診断ツールを使用することで、性格や行動の傾向をある程度、理解できます。これらの診断は、職場での行動や人間関係の築き方を知る手助けとなります。
•360度フィードバック
360度フィードバックは、上司や同僚、部下、さらにはクライアントからの評価を集める方法です。多面的な視点から自分を評価してもらうことで、自己認識のギャップを埋めることができます。
2.実践的な自己分析方法
実際の職務経験を振り返ることで、自分のコンピテンシーを深く理解することができます。
•過去の成功体験の分析
自分が成功したプロジェクトや業務を振り返り、何がうまくいったのか、その時にどのようなスキルや能力を発揮したのかを考察することが有効です。
•上司・同僚からのフィードバック収集
周囲からのフィードバックは、自分では気づきにくい強みや改善点を見つける貴重な情報源です。定期的にフィードバックを求め、それを活用することで自己理解を深められます。
•業務日誌の記録と振り返り
日々の業務を記録し、定期的に振り返ることで、どのようなスキルを頻繁に使用しているか、どの場面で困難を感じているかが明確になります。
5.企業における活用例
以下にその具体例を挙げます。
•富士ゼロックスは、1999年に管理職以上の社員を対象に人事制度を改革しました。職能等級制度を廃止し、業務の役割に基づく新たな評価基準を導入しました。富士ゼロックスのコンピテンシーモデルは、組織の成果を向上させるために設計された体系的なアプローチです。このモデルは、職務において効果的な成果を上げるために必要な行動特性を明確に定義し、従業員がどのように行動すべきかを示します。具体的には、以下のような要素が含まれます。
行動特性の定義: 各職務において求められる具体的な行動やスキルを明確にし、従業員が目指すべき基準を設定。
パフォーマンス向上: 定義された行動特性を基に、従業員のパフォーマンスを評価し、改善点を明確にすることで、組織全体の成果向上。
キャリア開発: 従業員が自身のキャリアパスを描く際の指針として機能し、必要なスキルや経験を積むためのロードマップの提供。
•楽天グループのコンピテンシーモデルは、社員一人ひとりが自律的に成長できる環境を整えることを重視しており、その結果として企業全体のパフォーマンス向上にも寄与しています。社員の成長とパフォーマンス向上を目的とした評価制度に基づいています。これは、期待される行動を継続的に発揮できているかどうかを評価するもので、評価結果は給与に反映されます。具体的には、楽天主義に基づく11の要素から成り立っており、各社員はこれらの要素に基づいて評価されます。
[コンピテンシー評価(11項目)]
・常に改善、常に前進:1.チャレンジ促進 2.革新 3.Create “Get things done” culture
・Professionalismの徹底:4.責務の遂行 5.効果的なチームの構築 6.人材の可能性を広げる/人材の育成
・仮説→実行→検証→仕組化:7.戦略策定 8.協働 9.仕組化
・顧客満足の最大化:10.社内外の顧客価値向上
・スピード!!スピード!!スピード!!:11.スピーディーな判断
このように行動特性や評価にコンピテンシーを用いることは、その会社特有の組織文化を構築することに役立ちます。一方、組織全体が変化するのには時間がかかるのと同時に、多様性にも考慮する必要があるでしょう。
6.まとめ:コンピテンシー評価テストの勧め
自分のコンピテンシーを理解することは、個人のキャリア形成だけでなく、企業全体のパフォーマンス向上にも寄与します。コンピテンシーは、自分の成長を加速させ、適材適所の配置を促進し、働きやすい職場環境を作り出します。自己評価や他者からのフィードバック、適性検査を通じて、自分の強みを明確にすることで、さらなる成長のチャンスを掴むことができるでしょう。
ここでは、コンピテンシー評価テストを活用したリーダー育成のプロセスを考えてみます。
①モデルリーダーの選定と分析
企業の理想的なリーダーとなる人物を選定し、アセスメントテストを受験してもらいます。その結果をもとに、リーダーの特性を分析します。
②リーダーに求められる特性の明確化
会社のミッション、ビジョン、価値観を踏まえ、それらを実現・発展させるために必要な価値観や行動特性をリストアップします。
③企業独自のリーダー像の構築
上記1と2の結果を統合し、企業独自のリーダー像を明確にします。
④コンピテンシー評価テストの実施
作成したリーダー像に基づいて、対象となるリーダーやリーダー候補にコンピテンシー評価テストを実施します。
⑤リーダーの選抜と行動計画の策定
評価テストの結果を参考に、新しいリーダーをリーダー候補者の中から選抜します。選抜されたリーダーや既存のリーダーには、評価結果を活用して、より優れたリーダーになるための具体的な行動計画を策定してもらいます。
⑥行動計画の実行と定期的な振り返り
策定した行動計画が確実に実行されているかを定期的に確認します。この際、個人での振り返りだけでなく、リーダー同士や上司と共に振り返る機会を設けることが有効です。
コンピテンシーは調べただけでは、意味がありません。行動に移していただくことが重要です。一方、コンピテンシーは見えないものであるために、個人では行動につなげることが難しいといった課題があります。研修やコーチング、自己改善プログラムを取りいれることをお勧めします。
▼出展
出典;
アントワネット D. ルシア他、実践 コンピテンシーモデル』(2002.3)
ジョン H. ゼンガー 他、本当の長所を見極め、さらなる高みを目指す、ハーバードビジネスレビュー、2012年2月号
https://corp.miidas.jp/assessment/3595/(2024/11/20)
https://www.dodadsj.com/content/200918_competency(2024/11/20)
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=3997(2024/11/20)
https://mitsucari.com/blog/competency_model_example/(2024.11.20)
https://corp.rakuten.co.jp/careers/career-development/(2024.11.20)
講師からのメッセージ