今さら聞けないエンゲージメント。サーベイをやりっぱなしにはなっていませんか。
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今さら聞けないエンゲージメント。サーベイをやりっぱなしにはなっていませんか。
1.エンゲージメントってなんですか
「エンゲージメント」とは、従業員が会社や組織に対してどれだけの情熱やコミットメントを持っているかを指す言葉です。
単に仕事をこなすだけではなく、積極的に組織の成功に貢献したいという気持ちが強い従業員ほどエンゲージメントが高いとされます。この概念は、特に企業や組織のパフォーマンス向上や従業員のモチベーションを高めるために、近年注目されています。エンゲージメントは、組織心理学や人事管理の分野で重要な概念ですが、その定義は研究者や組織によって異なります。以下に複数の定義を紹介します。
・ギャラップ社の定義: 従業員エンゲージメントとは、従業員の仕事への関与と熱意の程度を表す。エンゲージした従業員は、自分の仕事と組織の目標に対して情熱的で深く結びついており、革新と組織の前進のために努力する。
・デロイト社の定義: 組織の目標と価値観に対する従業員の情熱と献身、そして組織の成功に貢献するためのモチベーションと努力の程度。
・学術的定義(Schaufeli et al.): 活力、献身、没頭によって特徴づけられる、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態。
これらの定義に共通する要素は以下の通りです
• 組織や仕事に対する強い心理的つながり
• 自発的な努力と貢献への意欲
• 仕事に対する熱意と没頭
• 組織の成功への関心と参与
エンゲージメントは単なる職務満足度や動機付けとは異なり、より深い心理的な結びつきと積極的な行動傾向を含む概念です。高いエンゲージメントを持つ従業員は、自分の仕事に誇りを持ち、組織の成功に個人的な投資をしているように感じる傾向があります。
具体例で見るエンゲージメントの違い
低エンゲージメントの従業員
•「仕事は給料のため」という割り切った考え方
•必要最低限の仕事しかしない
•改善提案や新しいアイデアを出すことは少ない
•問題が発生しても「誰かが対応するだろう」と考える
高エンゲージメントの従業員
•「この会社で価値を生み出したい」という意識
•求められる以上の成果を目指す
•自発的に改善案を提示する
•問題を見つけたら自ら解決しようとする
2. エンゲージメントはなぜ大切なのか
エンゲージメントが高い従業員は、以下のような理由から組織にとって重要です。
・生産性向上
エンゲージメントが高い従業員は、積極的に仕事に取り組み、効率的に成果を上げる傾向があります。ギャラップ社の調査(2022)によると、エンゲージメントの高い従業員のいるビジネス集団は、低い集団と比較して23%高い収益性を示しています。
・離職率の低下
組織に対して高い忠誠心を持つ従業員は、長く働く意欲があり、離職率が低下します。ギャラップの調査(2017)によると、エンゲージメントが高い従業員が多い組織では、離職率が最大43%低くなるというデータがあります。
・顧客満足度の向上
従業員が自分の仕事に満足しやりがいを感じていると、その満足感は顧客にも伝わり、結果的に顧客満足度が向上します。ハーバード・ビジネス・レビュー(2008)に掲載されたジェームズ・ヘスケット教授らの研究によると、従業員のエンゲージメントが顧客満足度やロイヤルティと密接に関連しており、従業員が顧客に対してポジティブな体験を提供する傾向が強いことが確認されています。
・組織文化の向上
エンゲージメントが高い従業員が多い組織では、積極的で前向きな文化が形成されやすく、職場全体の雰囲気も良くなります。デロイト社の報告(2015)では、エンゲージメントが高い従業員が多い企業は、そうでない企業に比べて、組織内のコラボレーションやイノベーションが進み、前向きでオープンな職場文化が形成されることが指摘されています。
3. エンゲージメント調査って受けたことある?
企業では、エンゲージメントを測定するために「エンゲージメントサーベイ」を行うことが一般的です。従業員の仕事や組織に対する意識を調査し、その結果をもとに組織の強みや改善点を把握します。もし、あなたがこのような調査を受けたことがあるなら、組織がどのようにエンゲージメント向上を目指しているかを感じたことがあるかもしれません。
1.エンゲージメントサーベイの内容
エンゲージメントサーベイは、主に次のような項目を含むことが多いです。
•仕事に対する満足度:業務内容や役割に満足しているかどうか。
•組織への信頼感:経営陣や会社の方向性に対する信頼があるか。
•成長機会:自分のキャリアやスキルが成長する機会が与えられているか。
•職場環境:同僚や上司との関係性、働きやすい環境が整っているか。
•報酬と待遇:給与や福利厚生に対する満足度。
この内容であると、さきにあげた定義からすると「自発的な努力と貢献の意欲」、「組織の成功への関心と参与」が十分に測られていないと思われます。
2.エンゲージメントスコア
サーベイの結果は「エンゲージメントスコア」として数値化されます。このスコアは、組織全体のエンゲージメントレベルを測る指標となり、企業はこのスコアを基に具体的な改善策を講じます。エンゲージメントスコアが高いほど、従業員が仕事に対して積極的で、会社に忠誠心を持っていると評価されます。
例としては従業員に対して、エンゲージメントに関する質問を5段階評価で回答してもらい、その平均点をスコアとして算出する方法があります。
例:あなたは現在の仕事にやりがいを感じていますか?
o1: 全く感じていない
o2: あまり感じていない
o3: どちらとも言えない
o4: やや感じている
o5: 強く感じている
回答が集まり、平均点が4.2なら、エンゲージメントスコアは「4.2」となります。これを全体の質問で集計し、総合スコアを出すこともあります。スコアは設問の仕方によって大きく影響されます。おそらく、回答には国民性も大きく影響されると思います。最初に引用したギャラップ社の調査で日本のスコアが低いのも、どちらかというと控えめに回答するといった日本人の傾向の現れかもしれません。
3.主なエンゲージメントサーベイ
代表的なエンゲージメントサーベイには、次のようなものがあります。
•ギャラップ社のQ12:12の質問を通して従業員のエンゲージメントを評価する手法。
•モチベーションクラウド:20分程度の簡単なサーベイに回答するだけで従業員のエンゲージメント状態を可視化・数値化。
•エンゲージメントサーベイ by Workday:データ分析を駆使して、リアルタイムでエンゲージメントを追跡できるサーベイ。
4.エンゲージメントサーベイの課題
総じて、日本におけるエンゲージメントサーベイにはコストや回答疲れ、結果活用の不十分さなど多くの課題があります。
・コストの問題があります。
エンゲージメントサーベイの実施には、外部の専門機関に依頼する場合や社内で独自に設計・実施する場合でも、時間とリソースが必要であり、これが企業にとって負担となることがあります。
・従業員の回答疲れが挙げられます。
頻繁にサーベイを実施すると、従業員は「また同じような質問に答えるのか」と感じ、回答への意欲が低下する可能性があります。このような状況では、正確なデータが得られず、結果として組織改善につながらない恐れがあります。
・サーベイ結果の活用不足も問題です。
調査結果をもとにした具体的なアクションが取られないと、従業員は「サーベイを行っても何も変わらない」と感じ、不信感を抱くことになります。このような状況は、エンゲージメントの低下を招く要因となります。
・匿名性の問題も指摘されています。
匿名で実施することで本音を引き出しやすくなる一方で、実名で行う場合は従業員が正直な回答を避ける可能性があります。特にセンシティブな質問については、「評価に影響するかもしれない」といった不安から、本音を隠す傾向があります。
これらの欠点は、日本特有の文化や労働環境とも関連しています。例えば、日本では上司との関係性や職場の人間関係が重視されるため、従業員は自分の意見を言いづらいと感じることがあります。これらを克服するためには、サーベイの目的を明確にし、適切な頻度で実施し、その結果を真摯に受け止めて改善につなげる姿勢が必要です。
4. エンゲージメントを向上させるためには何をすればいいのか(対策)
エンゲージメントを向上させるためには、従業員が会社に対して信頼感や満足感を持ち、積極的に仕事に取り組む環境を整える必要があります。具体的には以下の施策が有効です。
1.待遇改善
従業員が自分の貢献に対して正当な報酬を得ていると感じることは、エンゲージメントを高める上で重要です。給与や福利厚生の改善は、従業員のモチベーションを維持するために欠かせません。また、柔軟な働き方やワークライフバランスを尊重する制度も重要です。
2.管理者研修
管理職が従業員と良好な関係を築けるかどうかが、エンゲージメントに大きく影響します。リーダーシップスキルやコミュニケーション能力を高めるための研修を行い、従業員の意見をしっかりと聞く体制を整えることが求められます。
3.1on1
管理職が従業員と良好な関係を築けるかどうかが、エンゲージメントに大きく影響します。リーダーシップスキルやコミュニケーション能力を高めるための研修を行い、従業員の意見をしっかりと聞く体制を整えることが求められます。
4.その他
•キャリア開発支援:従業員が自分のスキルを高め、キャリアを発展させるための支援を提供すること。
•フレキシブルな働き方:リモートワークやフレックス制度など、従業員のライフスタイルに応じた働き方を導入する。
•チームビルディング活動:職場内でのチームワークを強化するイベントやアクティビティを通して、従業員間の結束を高める。
エンゲージメントを向上させるためには、組織全体が一丸となって従業員の満足度とパフォーマンスを高める努力が必要です。これにより、長期的に持続可能な成功を収めることができるでしょう。
具体的なエンゲージメント向上の例
・株式会社メルカリ
メルカリは「Go Bold」(大胆にやろう)をコアな価値観とし、社内文化を大切にしてきました。「Go Bold」をはじめとする3つのバリューが組織全体で強く共有され、社員の意識改革やエンゲージメント向上に寄与しています。実際、メルカリは社内の目標共有を四半期ごとに行い、リーダーシップがこれをリードすることで、従業員の関与度を高めてきました。また、プロジェクトの多くは従業員主導で運営され、主体性を発揮しやすい環境が整備されています。これにより、エンゲージメントスコアが32%向上し、離職率が15%減少したという具体的な成果も報告されています。
・セールスフォース・ジャパン
セールスフォース・ジャパンの1-1-1モデルは、同社のCSR活動として世界的に知られており、製品、株式、時間の1%を社会貢献に充てる取り組みです。また、フレックスタイムやリモートワークの導入、充実した育児支援制度など、働きやすい環境を整えています。これにより、同社は「働きがいのある会社ランキング」で5年連続トップ10に入るなど、企業としての評価も非常に高いです。このような会社は従業員の目的意識を満足させることにより、エンゲージメントを高めていると言われています。
5.まとめ
筆者はハリソンアセスメント(https://www.harrisonassessments.com/)の認定コンサルタントです。この会社の創設者兼CEOであるダン・ハリソン博士は、「アセスメントはマネージャーだけでなく、従業員も責任を持つべきだ」と提唱しています。筆者も、各従業員が自らの行動特性やコンピテンシーを理解し、自律的にキャリアを築いていくことが、長期的なエンゲージメントの向上につながると考えています。また、企業側も従業員の待遇改善だけでなく、誰もが活躍できる場を提供することが重要だと感じます。
ハリソンアセスメントのサーベイでは、他の目的のサーベイ(例えばコンピテンシー)と共通の質問票を使うことで、従業員の回答の手間を減らしています。また、記名式のため、従業員一人ひとりのエンゲージメント状況に合わせた施策を取ることが可能です。特に離職防止に役立ちます。
もし、ハリソンアセスメンツに関して説明が必要であれば、Eメール(kodo.kaizen@gmail.com)にてご連絡ください。
▼出展
Gallup, 「日本の職場の現状」(2024)
Gallup, “State of the Global Workplace Report” (2020)
Gallup, “Employee Engagement and Performance: Latest Insights” (2017)
Harvard Business Review, “The Service-Profit Chain,” Heskett, Sasser, and Schlesinger (2008)
Deloitte, “Global Human Capital Trends” (2015)
メルカリの新・人事評価制度とはhttps://jinjibu.jp/article/detl/tonari/2565/ (2024/10/23)
世界550社が真似をしたセールスフォースの社会貢献モデル
https://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1188808_1534.html (2024/10/23)
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