現役人事担当者が語る「今、必要としている研修」
JPIA会員講師には、現役人事担当者の方も数多くいらっしゃいます。
今回は、外資系金融会社の人事担当者田中さん(仮名)へのインタビュー記事を公開します。
<田中さん(仮名)>
外資系金融会社にて約15年、人材採用や研修を担当。現在は人事部マネージャーとして、
主に部下を持つ社員の支援、自らも新卒社員の研修講師・メンターを務める。
——-これまで実施された研修で、どういうものが
育成していく上で成果があったと思いますか?
(田中さん):新卒研修では、導入研修です。しっかりとマインドセットをやっています。
あとは会社を知ってもらうというところに時間をかけた研修です。具体的に言うと、全社員を
絡めた新卒の研修の一部をやっていて、社員に対して新入社員がインタビューに行くという研修です。
社員たちがどんなモチベーションで仕事をしているのか、どんなキャリアを歩んできているのかを、
一人一人インタビューさせていきます。最後にマネジメントや社長に対して発表してもらうのですが、
それが全方向的な相乗効果があるのです。
新入社員は、どういう先輩たちが働いているのか、どういうモチベーションで仕事をしているのか、
会社のことをより良く知ることができ、自分のキャリアについてのヒントが得られます。
インタビューを受ける社員からは、改めて自分がどんな信念を持って仕事しているのか、
どういうキャリアでどんなことをしてきたのかを振り返る機会になるので、リフレッシュになり、
仕事に対するモチベーションが上がる、と言われます。
社長をはじめマネジメントは、社員がどんなことを考えて、どんな気持ちで仕事をしているのかを
普段聞く機会が無かったのですが、新入社員がプレゼンテーションという形で発表することで
知ることができるようになりました。3者がWin-Winとなる研修になっています。
これは10年弱ぐらい続いていますね。
–––最初はどういうきっかけでスタートしたのですか?
(田中さん):何かの集まりに出た時に「社員のクレドを聞く機会ってあんまりないよね?」と
いう話があり「そういえばうちもそうだな」と思いました。それを新入社員の研修に導入したら
どうかと考えて、小さく始めたのです。最初は受け入れられるかドキドキしましたが、
やってみると結構みんな喋るし、喋ると面白かったみたいで徐々に広がっていきました。
–––研修の内容は自社で企画されたものと、研修会社さんから企画提案されたものや、外部の講師に
頼むこともあると思います。比率はどのぐらいですか?
(田中さん):社内で企画しているものがほとんどです。外部に委託するのは2か月の研修の中の
3日間だけで、基本的なビジネスマナーや、学生から社会人への最初のマインドチェンジのところです。
–––田中さんがその年新しく作る研修はどの程度の割合でしょうか?
(田中さん):新卒の研修は、毎年新入社員の傾向が変わるので、それに合わせてカスタマイズしています。
メインとなるものはあるのですが、付随するものや、メイン研修の組み立ての順番を変えて、その順番を
生かすために新しい企画の研修を入れる、などとやっています。7~8割は一緒かもしれないですが、
2~3割は変えている感じです。中堅社員向けは、「こういう研修をやりなさい」「こういうものを
導入しなさい」と毎年新しい指示が来ます。それを社内講師にするか、外部にお願いするかを
振り分けている感じです。
–––それはテーマだけ指示があるのですか?
(田中さん):「統一したものをやりなさい」ということでコンテンツが下りてくるケースが多いです。
–––既に出来上がっているコンテンツの筋や中身で、社内の講師、外部の講師、どちらに依頼するかは
日本側でアレンジしながら決めていらっしゃるのでしょうか?
(田中さん):そうですね。外部にお願いする時は大体、会社が全世界で決めている研修会社さんに
お願いするという感じです。
–––そういう意味では、新しい研修会社さんが入ってくるケースはあまり無さそうですね。
(田中さん):国内で何か企画した時はお願いするケースはあります。ハラスメントの研修などは
国内でアレンジしたりします。
–––日本側で研修を決めるパターンは、年間の全研修の中で何割程度ですか?
(田中さん):すごく少ないです。研修自体が階層別研修をしっかりやるのではなく、当社の場合
基本的には今はオンラインでのe-learningの受講と、オンラインでのリアルタイムのライブ研修を
海外主催でやっていることが多くて、そちらに参加するよう指示があります。
ここ数年で、そこで補填できないものは国内でやる傾向になってきました。前はもう少し自由に
やらせてもらえていたのですが、ここ数年は決まった研修をやる傾向になってきています。
課題としては、大体そういうコンテンツは英語なのです。英語でも、ただ聞くだけだったら大丈夫な人、
字幕が出ていれば大丈夫な人もいますが、ディスカッションやインタラクティブな研修になると、
参加が出来る人/出来ない人が出てきてしまうので、そこは課題と思っています。
–––ここ最近研修として興味のあるテーマ、会社として必要性を感じている研修テーマを
教えていただけますか?
(田中さん):最近はハラスメントがその一つです。特に、上司がコミュニケーションに
気を付けているけれども、受け取る側が「言い方がきつい」「共感的でない」とか、そういうことで
「ハラスメントじゃないか?」と感じるケースが出てきています。アサーティブにコミュニケーションを
取ること、ウェルビーイングを高く仕事をしていくために、自分はどのように物事を捉え、受け止め、
解釈したら良いのかというような、部下となる若手や女性向けの、受け取り側のマインドセットを
変えていく研修が必要と感じます。
–––確かに、上司の方からの言い方がきついなど、伝える側にフォーカスされることが多いですよね。
(田中さん):言う側はいくら気をつけていても、受け取る側が「相手が気を付けている言い方だよ」
というのを捉えられなければ意味がないので、受け止める側の研修が必要かなと思っています。
できるだけ離職者や休職者を出したくないので、防止研修的なことをやっていく必要があると思いますね。
あとは、チームビルディングです。今、当社の組織改編をしていて、これまで一緒に働かなかった人たちと
働くケースが出てきています。チームビルディング系のいわゆる一緒にワーッとやる研修ではなく、
相手を受け入れたり、違う組織や世界をきちんと理解する力をつけたり、そういう意味での
「ビルディング」です。どういう研修かイメージがあまり湧かないですが、そういうものは必要かなと
思っています。
–––チームビルディング系の研修というと、皆でグループワークをするイメージが強いですよね。
(田中さん):「自分と相手」の違い、それが「マネージャーと部下」の関係性を築いていく上での
「相手を知る」っていうこともそうですし、組織として「違う組織を知る」「関係性を知っていく」
「違うカルチャーの人たちを受け入れる」、そういう研修があるといいと思います。
–––相手を知る、という意味では、先程おっしゃったハラスメントの部下側の受け取る力も共通項ですね。
(田中さん):先月マネージャー研修をした時に、エモーショナル・インテリジェンスをテーマに入れました。
今は部下に対して共感的に接することや、相手の感情をしっかりと汲み取って、その人のキャラクターに
合わせたコミュニケーションをしていきましょう、という点を重点的にやったのですが、そこに意識が
行っていなかったマネージャーも少なからずいました。そこもちゃんとフォーカスしていかないと、
気づけない人たちが一定数いるのだな、と改めて重要性を感じたところでした。
–––日本人は、会社の中で感情というものにフォーカスすることがあまり無いのかもしれませんね。
(田中さん):そうですね。あまり表面的に出さないから気づき辛いというのもありますし、
「ビジネスなのだから感情とかプライベートとかおかしいよね?」という人もまだ少なからずいるからだと
思います。でも、今はもう「ライフもワークもインテグレートして一緒だよ」となってきていますよね。
そういうところも今後マネジメントは取り入れていかないといけない時代なのだと思います。
–––今の時代に求められているものは、人生の中での充実感や幸福感と言われることが多いと思います。
今のお話の「感情」が当てはまるかと思いました。以前に比べて研修で求められているテーマが
変わってきている感覚はありますか?
(田中さん):そうですね。効率化やパフォーマンスを上げるための研修も引き続き必要だと思うのですが、
パフォーマンス高く仕事をしていくための土台が大切で、その土台の中にはビジネスパーソンとしての
マインドやスキルと共に、プライベートがきちんと安定しているか、安心して仕事ができる環境なのかも
含まれます。
パフォーマンスにつながるので、そういうところまでマネージャーがケアしていかないと
いけないだろうし、個人も自分たちできちんと土台を整えていく必要があるのだよ、というところは
違ってきています。ビジネスとプライベートの境がなくなってしまったので、そのバランスをどう自分自身で
コントロールして行くかが、今の人たちには求められるし、そこも理解した上でどう会社のパフォーマンスを
上げていくかを、マネージャーが考えていく必要がある、という点は変わってきていると思います。
–––意識変革を促すような研修が必要とされているのですね。
(田中さん):はい、当社でも今海外から「ハイブリッドワークの研修を推進するための研修をしなさい」と
指示されています。どうやって自分の仕事とプライベートを両立するか、家庭のこともこなしながら、
仕事の時間もしっかりと、みんなとコミュニケーションを取りながらやっていきましょうね!といった、
ハイブリットワークを推進していくための理解を得るための研修です。あと、ウェルビーイング系の研修です。
アプリを導入したり、各国の社員たちが「今自分がどういう状況で、どんなことで困っているけど、
それをどんなふうに考えて乗り越えたのだよ」といった事を、みんなでディスカッションするパネルディスカッションの
ようなセッションをやっています。
–––スキルやパフォーマンスの向上といったところから、更に進んでいそうですね。
(田中さん):スキル研修ももちろんやります。若手の営業社員が営業スキルを獲得するための一年半の
トレーニングは、月に一回集まってフォローしています。ハイパフォーマーの人たち向けの特別なトレーニングも
行なっています。
–––実際に研修全体をタイプ別に分けると、
(1)知識を提供するもの、(2)スキルやパフォーマンス向上のもの、
(3)マネジメントと部下との付き合い方やコミュニケーション の3タイプぐらいに分かれるということですか?
(田中さん):そうですね、(1)知識系と、(2)マネジメント・リーダー系の研修と、あとは(3)スキル系と、
(4)マインド系です。
–––去年一年間を振り返られてパフォーマンス向上、スキル向上の研修と、いわゆるハイブリッド枠と呼ばれる
意識を変える研修との比率で言うと、去年はどのぐらいの割合でしたか?
(田中さん):パフォーマンス向上だけではなくて知識レベルを上げるための研修だと思います。知識レベルを
上げるための研修がどうしても多いです。
–––金融だと法律なども重要かと思うのですが、そういう知識や、世界経済の知識の研修ですか?
(田中さん):どちらかというと、「こういう業界ではこういうリスクが多いよね」といった内容です。
新たなリスクとして、例えば「サイバー攻撃」「サイバー関係、テクノロジー関係のリスク」などですね。
業界や商品知識のブラッシュアップも行なっています。
–––最先端のリスクも知って分析しておかないとならないのですね。
(田中さん):はい。日本はリスク後進国なのです。アメリカやヨーロッパの最新の情報を社内で共有できる
環境にあるので、その勉強会も行なっています。
–––知識系が今はボリュームゾーンですね。
(田中さん):そうですね。
–––田中さんが研修へずっと携わられて、人を育成する上で大事にしていることは何かを教えていただけますか?
(田中さん):そうですね。「何を実現したいのか」というのがその人によってあると思います。
「どう成長したいか」「どんな風になりたいか」があって、そのギャップを埋めるのが研修かなと思います。
そのギャップが少しでも埋まるような研修を企画できること、研修を受講できる環境を作ってあげるのが大切と
思っています。実際には、「集合研修やります」と言うと、「仕事が忙しくて参加できません」ということが多いのです。
参加率を上げるために開催の時間を考えたり、長い研修だったら分けたりとか、できるだけ受講できるように
考えることも一つ大切かなと思いますし、受けたら受けっぱなしにならないように・・・ここは課題でもあるのですが、
どうその後フォローして実際に使えるものになっているかなど、力を入れていきたいなと思っています。
–––そうですよね。みんなが参加できて時間的にも受けられることもできた、でもそこで終わりにならないと
いうことですね。
(田中さん):そうなのです。一つ実施したのは、マネージャー研修でコーチングのスキルを学んでもらった後、
面談の場など、実際に部下に対してコーチングのスキルを使う場面でなかなか上手くいかないので
「練習会をやりましょう」となりました。2週間に一度の開催で、一年以上練習会をやっています。
参加したい人が参加して、自分がコーチ役をやったり、部下役(受ける側)になったり、コーチング練習をして
ブラッシュアップを継続的にしていきましょう、というフォローアップはやってみました。
–––その時だけではなく、その後にも続けていくことが大事なのですね。
(田中さん):そうですね。実際に活用できるかどうかが大きいと思います。
–––研修は、その後のフォローも含めて全部が研修なのだと改めて思いました。本日はありがとうございました!